その重要性と全リスト

エンタープライズアーキテクチャフレームワーク

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はじめに

EA(エンタープライズアーキテクチャ)は、情報テクノロジーをビジネス目標に整合させることを目指す現代の組織にとって不可欠な分野です。EA では、組織のプロセス、情報システム、人材、ビジネス目標を全体論的に捉えます。

EA の主たる目的は、組織が戦略を実行するために必要なビジネス、情報、プロセス、およびテクノロジーの変革を進める上での案内役となる地図を作成することです。

こうした地図は、組織の計画策定や設計に対する体系的なアプローチを提供する、さまざまな EA フレームワークを用いて作成されます。

📚 関連:エンタープライズアーキテクチャ戦略

 

エンタープライズアーキテクチャフレームワークとは

EA フレームワークは EA 分野の根幹をなすものであり、組織の構造や運営を整理するための系統立ったアプローチを提供します。

EA フレームワークは、企業の主な視点から得たものを体系的に捉えるための青写真であると考えられます。つまり、組織が内部構造、IT 資産、プロセス、ポリシーを理解し文書化することを支援する概念的ツールと言えます。

このようなフレームワークは、組織が IT とビジネスを整合させることによって戦略的目標の達成を確実にするために、全社的な分析を計画し実行する上で役立ちます。

一般的に、EA フレームワークには以下が含まれます。

  • EA プロセスの指針となる一連の原則とプラクティス。
  • コミュニケーションの一貫性と明確性を保つための共通の用語集とモデル一式。
  • 組織のシステムアーキテクチャを体系的に整理するための方法論的アプローチ。

フレームワークによってその対象範囲は異なることが多く、ビジネスアーキテクチャ、データアーキテクチャ、アプリケーションアーキテクチャ、テクノロジーアーキテクチャなど、さまざまな EA のレベルが対象となります。

フレームワークの中には規範性が高いものもあれば記述的なものもあり、プロセスに重点を置くものもあれば文書に重点を置くものもあります。

EA フレームワークにおける標準化の重要性

EA フレームワーク内での標準化は、組織のアーキテクチャのさまざまな要素の一貫性と統合性を確保するために極めて重要なものです。

標準化によって作業の重複を避け、IT システムとビジネスプロセスが衝突する可能性を低減することができます。

標準化されたフレームワークでは、以下も促進されます。

  • IT 部門とビジネス部門のコラボレーションの強化
  • 明確かつ構造化された情報表現による意思決定の改善
  • IT 資産および IT リソースの管理効率の向上
  • 組織の進化に応じた新テクノロジーや新プロセスの採用の容易化
  • さらに標準化は、EA 活動の有効性を業界標準に照らしてベンチマーキングし評価する上でも役立つ。これにより組織は、進捗と成熟度を測定し、改善領域を特定し、ベストプラクティスを導入することが可能になります。

ガイド

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エンタープライズアーキテクチャフレームワークの一覧

EA フレームワークは画一的なものではなく、そのアプローチ、方法論、最終的な目標はフレームワークごとに大きく異なります。

本セクションでは、さまざまな EA フレームワークの概要と、それらのフレームワークにおける標準化の重要性について概説します。

1. TOGAF (The Open Group Architecture Framework)

TOGAF は、特に人気があり広く利用されている EA フレームワークの 1 つです。The Open Group によって開発されたこのフレームワークは、組織が自らにとって最適なアーキテクチャを設計、評価、構築するための支援をすることを目的としています。

中核的な概念

このフレームワークの柱をなすのは、EA を構築するための段階的なアプローチを提供する TOGAF アーキテクチャ開発手法 (ADM) です。ADM は、初期計画からアーキテクチャ導入後の管理やガバナンスに至るまでの必要なあらゆるフェーズを網羅しています。

TOGAF のアーキテクチャ開発手法 (ADM)

ADM のサイクルは、以下のフェーズから構成されます。

  • 初期フェーズ:組織が TOGAF を採用できるように準備する。
  • フェーズ A:アーキテクチャビジョン:スコープ、ステークホルダー、ビジョンを定義する。
  • フェーズ B:ビジネスアーキテクチャ:ビジネスアーキテクチャを開発する。
  • フェーズ C:情報システムアーキテクチャ:データおよびアプリケーションアーキテクチャを含む情報システムアーキテクチャを開発する。
  • フェーズ D:テクノロジーアーキテクチャ:テクノロジーアーキテクチャを設計する。
  • フェーズ E:機会とソリューション:定義したアーキテクチャを実現する手段を特定する。
  • フェーズ F:移行プランニング:詳細な導入計画を策定する。
  • フェーズ G:導入ガバナンス:導入を監督する。
  • フェーズ H:アーキテクチャ変更管理:新しいアーキテクチャに対する変更を管理する。

これらのフェーズを支援するのが TOGAF エンタープライズコンティニュームおよびツール (TOGAF Enterprise Continuum & Tools) です。これは、EA に関わるさまざまな資産を分類・保管する方法を提供するものです。

メリット

  • エンタープライズ情報アーキテクチャの設計、計画、実装、ガバナンスに対する包括的なアプローチを提供する。
  • 組織のニーズに合わせて調整できる。
  • IT アーキテクチャ構築プロセスに関する詳細なガイダンスを提供する。

課題

  • 包括的であるがゆえに、理解や実装が複雑になる可能性がある。
  • メリットを最大限に実現するには、かなりのコミットメントとリソースが必要となる。
  • TOGAF の方法論を採用して遵守するには、組織文化の変革が必要になることもある。

📚 関連:TOGAF 詳細ガイド

2. ザックマンフレームワーク

ザックマンフレームワークは、最初期に誕生した最も基本的な EA フレームワークの 1 つです。1987 年にジョン・ザックマン (John Zachman) によって考案され、その包括性と記述性を重視するアプローチによって EA 分野の基礎をなしてきました。

ザックマンフレームワークは、複雑なエンタープライズシステムを開発する際に利用されるアーキテクチャアーティファクト(すなわち、設計文書、仕様書、モデル)を整理するための分類法であると説明されることがよくあります。ほかの一部のプロセス指向のフレームワークとは異なり、マトリクス構造を成しています。

構造

ザックマンフレームワークは、コミュニケーション上の 6 つの論点(What[何を]How[どのように]Where[どこで]Who[誰が]When[いつ]Why[なぜ])を表す列と、異なる 6 つの視点(プランナーオーナーデザイナービルダーサブコントラクターエンタープライズオペレーション)を表す行を交差させた 2 次元の分類スキーマで構成されています。

主な構成要素とアーティファクト

マトリクスの各セルは、EA の全体像を作り上げるために必要な特定のアーティファクトを表します。これらのアーティファクトによって、さまざまな視点で組織を理解し、文書化できるようになり、見落としを防ぐことができます。

利点

  • 組織を全体論的な視点で捉え、文書化するための高度に構造化された手法を提供する。
  • それぞれの視点が明確に定義されており、徹底的な文書化と分析を促す。
  • ステークホルダーの関心事にもれなく対処するために役立つ。

限界

  • フレームワークがあまりに複雑かつ硬直的であるとみなされる可能性がある。
  • EA を開発するための具体的な手法を提供するわけではない。
  • アジリティが求められるハイペースな環境では適用が難しいこともある。

ザックマンフレームワークは、後続の EA フレームワークの開発に多大な影響を与えてきました。それらのフレームワークの多くがザックマンフレームワークの主要な概念や構造を部分的に取り入れています。

3. 米国連邦エンタープライズアーキテクチャフレームワーク (FEAF)

FEAF は、米国連邦政府によって開発された EA フレームワークであり、その目的は、組織全体の改善活動の一環として、戦略、ビジネス、テクノロジーの管理を統合するための共通のアプローチを提供することにあります。

FEAF は、連邦プロセスの共同開発、相互運用性、連邦機関や他の政府機関の間の情報共有を促進します。連邦機関は FEAF を利用することによって、IT リソースとミッションや戦略計画との整合性を高めることができ、その結果、公共サービスをより効率的に提供できるようになります。

FEAF のセグメントアーキテクチャ

FEAF の主要な構成要素の 1 つがセグメントアーキテクチャです。セグメントアーキテクチャは、組織を管理可能なセグメント(つまり事業領域)に分割することで、組織に対する全体論的な視点を保ちながら個別に対応できるようにするものです。これにより、改善の焦点を絞ることができ、IT 投資の管理がさらに容易になります。

FEAF のパフォーマンス参照モデル (PRM)

PRM も FEAF に不可欠な要素です。PRM は、IT 投資のパフォーマンスと戦略的成果への影響を測定するのに役立ちます。PRM は、連邦機関全体のパフォーマンスを理解するための共通フレームワークを提供することによって、より的確な意思決定と、連邦 IT リソースの管理効果の向上を可能にします。

政府機関における FEAF の導入

FEAF の導入によって得られる重要なメリットには以下のようなものがあります。

  • ビジネスと IT の整合性を高めることができる。
  • 共通の分類法と方法論を利用することで意思決定を改善できる。
  • 各連邦機関の間のコラボレーションと情報共有を拡大できる。

ただし、組織は以下のような課題に直面することもあります。

  • 標準化された方法でアーキテクチャを文書化し、分析することに適応する必要がある。
  • 文化的、組織的な大規模な変革管理が必要になる。
  • 組織のさまざまなセグメント間で一貫性とコンプライアンスを確保しなければならない。

要するに FEAF とは、連邦機関が EA を管理するための体系的なアプローチを提供するものです。連邦政府特有のニーズに合わせて設計されており、サービス提供とガバナンスの改善を促します。

 

4. ArchiMate:EA 向けモデリング言語

ArchiMate は、The Open Group によって開発された包括的なエンタープライズデータモデリング言語であり、IT アーキテクトが明確かつ統合的な EA モデルを作成することを可能にします。他の EA フレームワークとは一線を画す存在ですが、アーキテクチャの可視化を強化するために、TOGAF のようなフレームワークと併用されることが多々あります。

ArchiMate では、EA を記述する図表を統一した表現で作成できます。さまざまなアーキテクチャドメインと、それらの背後にある関係性や依存関係を記述し可視化する、統合的なアーキテクチャアプローチを提供します。

ArchiMate のレイヤード(階層化)アプローチ

この言語は、以下の 3 つの主なレイヤー(層)を柱に構成されています。

  • ビジネスレイヤー:ビジネスアクターが実施するビジネスプロセスによって組織内で実現される製品やサービスを、外部顧客に提供する層。
  • アプリケーションレイヤー:(ソフトウェア)アプリケーションによって実現されるアプリケーションサービスを利用して、ビジネスレイヤーを支える層。
  • テクノロジーレイヤー:コンピューターおよび通信ハードウェアやシステムソフトウェアによって実現される、アプリケーションを稼動させるために必要なインフラサービスを提供する層。

これらのレイヤーは、アーキテクチャをビジネス目標に整合させるための助けになるモチベーションや戦略といった、追加的なアスペクト(側面)によって支えられます。

ArchiMate と他の EA フレームワークの統合

ArchiMate は、他の EA フレームワークと共存できるように設計されています。例えば TOGAF の ADM は、EA の開発ライフサイクルを管理するために利用できますが、ArchiMate は、そのライフサイクル内のさまざまなフェーズや構成要素を記述し、可視化するために利用できます。

ArchiMate のユースケースと用途

組織が ArchiMate を利用する目的は以下のとおりです。

  • ビジネスプロセス、組織構造、情報フロー、IT システム、技術インフラの構造と運用を記述する。
  • 複雑なアーキテクチャを明確に記述することによって、理解とコミュニケーションの向上を促す。
  • EA の概念を視覚的に表現し、分析と意思決定を支援する。

ArchiMate をモデリング言語として効果的に利用すれば、組織の EA 活動の明瞭度とインパクトは大幅に向上し、ArchiMate がアーキテクトに必須の貴重なツールの 1 つとなる可能性があります。

5. 米国国防総省アーキテクチャフレームワーク (DoDAF)

DoDAF は、米国国防総省 (DoD) が採用するアーキテクチャフレームワークであり、DoD が組織の現状と将来像を可視化し、明確に表現するための方法を構造化したものです。

2000 年代初期に開発された DoDAF は、DoD 内の各種計画やプロジェクトと DoD の戦略およびリソースとの整合性を確保することを目的としています。

このフレームワークは、上位の戦略計画担当者からシステム実装担当者に至るまでの幅広いステークホルダーとその関心に対処するフレームワークです。

中核的な構成要素

DoDAF では各要素のビューとモデルを、さまざまなステークホルダーの視点と一致させた以下のようなビューポイントにまとめています。

  • 全体ビューポイント (All Viewpoint: AV):あるアーキテクチャを完全に理解するために必要な情報をすべて挙げて記述する、包括的な視点。
  • 機能ビューポイント (Capability Viewpoint: CV):作戦と機能の関係性を詳述するもので、それらの機能を実現するためのビジョンを含む。
  • データおよび情報ビューポイント (Data and Information Viewpoint: DIV):組織内のデータの関係性と整合構造に焦点を絞る。
  • 作戦ビューポイント (Operational Viewpoint: OV):軍事作戦を遂行または支援するために必要なタスクと活動、作戦要素、情報フローを記述する。
  • サービスビューポイント (Services Viewpoint: SvcV):サービス実行者とサービス間のやり取り(サービス仕様を含む)を明確に記述する。
  • システムビューポイント (Systems Viewpoint: SV):さまざまな物理システムとそれらの相互接続性を具体的に記述する。
  • 標準ビューポイント (Standards Viewpoint: StdV):作戦、ビジネス、技術、および産業に関する適用対象のポリシー、標準、ガイダンス、制約、および予測を明確に記述する。

ビューポイントとモデル

これらのビューポイントにはさらに詳細なモデルが含まれており、それぞれのモデルはアーキテクチャの特定の側面に対処できるように設計されています。例えば、作戦ビューポイントには、システム間通信の関係性を説明する作戦ノード接続記述 (Operational Node Connectivity Description) などのモデルが含まれます。

メリット

  • 明確な EA を開発するための実証された方法論を提供する。
  • DoD 全体での情報とリソースの共有を強化する。
  • 標準化されたアプローチを通じてより的確な意思決定をサポートする。

課題

  • 複雑かつ包括的であるため、習得が容易ではない。
  • 組織の進化に応じて最新の状態を維持するために多大な労力を要する。
  • 変化の激しい環境にはあまりに厳格で適さないこともある。

DoDAF は、DoD やその他の防衛関連組織にとって引き続き重要なフレームワークであり、複雑なシステム群の適切な設計、および戦略的目標と作戦上のニーズへの対応を確実にするものです。

6. 英国国防省アーキテクチャフレームワーク (MODAF)

MODAF は、防衛計画策定および変革管理活動を支援することを目的として英国国防省によって開発されたアーキテクチャフレームワークです。

✍️ MODAF は NATO アーキテクチャフレームワークに置き換えられました。

MODAF は、防衛のさまざまな分野におけるアーキテクチャ要素を表現して可視化する方法を標準化し、意思決定者が複雑なシステムを理路整然と理解できるようにするものです。

MODAF は、英国国防省における適切な装備や技術システムの調達・管理をサポートするように設計されています。

構造とビューポイント

MODAF では、以下のようなさまざまなビューポイントに分類された情報を、一連のビューに整理します。

  • 戦略ビューポイント (Strategic Viewpoint: StV):機能計画策定に求める成果と戦略的な方向性を定義する。
  • 作戦ビューポイント (Operational Viewpoint: OV):作戦を遂行するために必要なタスクおよび活動、作戦要素、情報交換を記述する。
  • システムビューポイント (Systems Viewpoint: SV):作戦活動を遂行できる環境を整えたり、支援したりするさまざまなシステムと、その相互接続を具体的に記述する。
  • 調達ビューポイント (Acquisition Viewpoint: AcV):システムの調達に関する事項(タイムスケールや標準規格など)を扱う。
  • 技術ビューポイント (Technical Viewpoint: TV):システムサービスとその相互作用を管理する標準およびルールを具体的に記述する。

MODAF による戦略的統合

MODAF は単なるモデルの集まりではありません。英国防衛省内のプロセスを戦略的に統合し、防衛職員が利用するシステムや手順と作戦戦略を整合させることを可能にするフレームワークです。

MODAF は、防衛を主眼とした組織やプロジェクトに特に適していますが、MODAF が体現する原則は、他分野の大規模なシステムエンジニアリングや統合活動にも応用できます。

MODAF は、リスクが高くシステムが複雑な環境において不可欠な、モデリングと意思決定に対する規律あるアプローチを促進します。

7. IAF (Integrated Architecture Framework)

IAF は、組織の EA を設計し文書化するために用いられる方法論です。エンタープライズシステムの複雑さに対処し、組織のビジネス面と IT 面の整合性を確保する方法として、キャップジェミニによって開発されました。

IAF は、詳細かつ包括的なアプローチで知られており、ビジネス、情報、情報システム、インフラ技術の観点から、組織を多次元的に捉えます。また、これらの観点を統合することによって、ある領域における変更が組織全体で正確に反映されるようにします。

原則と方法論

IAF は、組織を全体論的に捉え、アーキテクチャのさまざまな構成要素間の相互関係に着目することを提唱する一連の原則の上に成り立っています。

IAF では、以下のような多様なモデルやビューを使用して EA の複雑さを把握し、記述します。

  • 文脈アーキテクチャ (Contextual Architecture):アーキテクチャの対象範囲と制約を定義する。
  • 概念アーキテクチャ (Conceptual Architecture):高次の構造やシステムを略述する。
  • 論理アーキテクチャ (Logical Architecture):論理的な構成要素とそれらの相互作用を詳述する。
  • 物理アーキテクチャ (Physical Architecture):システムや技術の物理的導入を記述する。

ビジネス変革における IAF の応用

IAF は、さまざまなアーキテクチャドメイン間での相互作用が重要になるビジネス変革イニシアチブを導く際に特に有用です。IAF の構造化されたアプローチは、組織が複雑な変革プロセスやテクノロジーの進歩に対応することを支援します。

強み

  • EA の対象範囲全体を把握するための包括的なエンドツーエンドのフレームワークを提供する。
  • 詳細な分析と意思決定を促す。
  • 組織全体での一貫性と標準化を促進する。

弱み

  • フレームワークの奥深さと複雑さが、初心者にとっては高いハードルとなる可能性がある。
  • 効果的に導入するには多大な労力と専門知識を要する。
  • アジリティや迅速な適応が求められる環境では、柔軟性に欠ける、または厳格すぎると受け止められることもある。

IAF の多次元的アプローチは、組織のアーキテクチャの複雑さを管理するための堅牢な仕組みをもたらすことによって、あらゆる構成要素を考慮し、組織全体の戦略や目標と整合させます。

8. その他のフレームワーク

上述の主な EA フレームワーク以外にも、組織固有のニーズやコンテキストに応じて利用を検討できるフレームワークがいくつか存在します。

これらのフレームワークは多様な視点と方法論を提供し、それぞれが EA の理解と整理に対する独自のアプローチをもたらしています。

このようなその他のフレームワークの概要を簡単に紹介します。

  • PEAF (Pragmatic Enterprise Architecture Framework):EA の実用性と実践性を重視し、従来のフレームワークの複雑さを軽減する。
  • TAFIM (Technical Architecture Framework for Information Management):米国国防総省が開発したフレームワークで、IT アーキテクチャを構築するためのガイドラインを提供する。
  • エンタープライズアーキテクチャプランニング (EAP):プロセス指向のフレームワークで、IT とビジネス戦略の整合性を重視する。
  • UVA モデル (University of Virginia Model):バージニア大学で開発された EA フレームワークで、学術プロセスと管理プロセスを整合させることに重点を置く。
  • IAF (Integrated Architecture Framework):キャップジェミニが開発したフレームワークで、EA の設計と文書化に対する詳細なアプローチを提供する。
  • 米国財務省エンタープライズアーキテクチャフレームワーク (TEAF):米国財務省のために開発されたフレームワークで、IT をビジネスのプロセスと目標に整合させるための指針となる。
  • 指揮・統制・通信・コンピューター・情報・監視・偵察 (C4ISR):防衛に焦点を絞ったフレームワークで、主に軍事用途で用いられる。
  • E2AF (Extended Enterprise Architecture Framework):既存の EA フレームワークを拡張したもので、エンタープライズ要素の拡大に重点を置く。
  • 政府エンタープライズアーキテクチャフレームワーク (GEAF):政府機関向けに特化されたフレームワークで、公共機関固有のニーズに焦点を絞る。
  • オラクルエンタープライズアーキテクチャフレームワーク (OEAF):オラクルが開発したフレームワークで、同社製品を利用したアーキテクチャ開発の指針となる。
  • NATO アーキテクチャフレームワーク (NAF):北大西洋条約機構 (NATO) が使用するフレームワークで、防衛関連のアーキテクチャ開発に対するアプローチを標準化する。

これらのフレームワークはいずれも固有の強みを備えており、他のフレームワークより、特定の種類の組織やアーキテクチャ上の特定のニーズに適している場合があります。

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適切な EA フレームワークの選定

適切な EA の選定は組織にとって、その影響が長期にわたる可能性もある重要な意思決定です。

EA フレームワークの選定プロセスは、組織の戦略的目標、文化、運用モデルと整合するさまざまな要素を検討する綿密なものになります。

  1. 業界固有の考慮事項
    規制要件やビジネスプロセス、テクノロジーランドスケープは、業界によってさまざまです。そうした業界固有のニーズに対応した EA フレームワークを選ぶ必要があります。例えば政府機関であれば、中央政府のプラクティスと整合する FEAF を選ぶのに対し、防衛部門では、DoDAF や MODAF を選ぶ傾向があるでしょう。
  2. 組織の規模と複雑さ
    組織の規模とその業務の複雑さも重要な要素です。規模が大きく、IT 環境の複雑度が高い組織では、多種多様な事業部門や IT システムを扱うことのできる TOGAF のように、堅牢性に優れたフレームワークが必要になる場合もあります。
  3. 既存のプロセスおよびツールとの統合
    選択する EA フレームワークは、組織内の既存のプロセスやツールと適切に統合できるものでなければなりません。現在の事業運営を妨げるのではなく、補完するものであるべきです。既存の IT ランドスケープへの適応性と、組織の成長に応じた拡張性は、重要な考慮事項です。
  4. EA フレームワークによる将来への備え
    業界と組織の現状だけでなく、将来の方向性も考慮することが不可欠です。EA フレームワークは、拡張性と柔軟性、そして将来のテクノロジー統合を実現可能にするものでなければなりません。ビジネスの進化に応じて、新興のテクノロジーや方法論を採用するための指針となるものです。

EA フレームワークの利用は一度限りのイベントではなく、整合・評価・適応を継続的に繰り返すプロセスです。重要な点は、組織にとって即時的な価値と長期的な戦略的適合性のバランスの取れたフレームワークを選ぶことです。

 

組織への EA フレームワークの導入

EA フレームワークを選定したら、焦点は導入に移ります。導入を成功させるには、慎重に計画を立て、ステークホルダーを関与させ、継続的に管理して、期待されるメリットがフレームワークによって確実に実現できるようにします。

導入のベストプラクティス

  • ステークホルダーエンゲージメント:EA フレームワークの導入を成功させるための第一歩は、組織全体のステークホルダーを巻き込むことです。経営上層部からエンドユーザーに至るまで、あらゆるステークホルダーから賛同を得ることが不可欠です。
  • 対象範囲と目標の定義:EA フレームワークによって成し遂げようとしていることを明確に定義し、導入の対象範囲を設定します。これは、現実的な期待と測定可能な目標を設定するための助けになります。
  • チームのトレーニング:導入を担当する EA チームが、選定された EA フレームワークに関する必要なトレーニングを受けて知識を習得できるようにします。
  • 反復型アプローチ:小さく始めて徐々に規模を拡大します。フレームワークを漸進的に導入することで、リスクを管理し、フィードバックや初期の結果に基づいて調整を加えられるようにします。
  • 組織に合わせたカスタマイズ:組織固有のニーズに応じてフレームワークをカスタマイズします。そのままで完璧に組織に適合する EA フレームワークはありません。たいていはカスタマイズが必要です。

一般的な課題を克服する方法

  • 変化への抵抗:組織内の抵抗を克服するには、変革管理戦略が不可欠です。コミュニケーションをとること、短期的な成果を示すことが、受け入れの拡大につながります。
  • 複雑性管理:チームやステークホルダーの混乱を防ぐために、複雑なタスクを管理可能な活動に分解します。
  • ビジネス目標との整合:EA イニシアチブとビジネス目標の整合性を常に確保します。必要であれば再調整します。

EA フレームワーク導入の成功度と ROI の測定

  • パフォーマンス指標:EA 活動関連の主要業績指標 (KPI) をビジネス成果と整合する形で確立する。
  • 継続的改善:指標を利用して改善領域を特定するとともに、組織に対する EA の価値を実証する。
  • 投資回収率 (ROI) の算出:コスト削減やアジリティといったビジネス上のメリットの観点から効果を定量化し、ROI を算出する。

EA フレームワークの導入では、アーキテクチャが組織の真のニーズに確実に応えるための献身的な努力、リソース、そして明確なビジョンが必要です。

 

エンタープライズアーキテクチャフレームワークの未来

EA はテクノロジーの進歩、ビジネスモデルの変化、イノベーションの加速に応じるように絶えず進化し続けています。

EA フレームワークの未来はこれらを原動力にして形作られ、適応性、新興テクノロジーの統合、アジャイル方法論との整合を重視したものになる可能性があります。

EA のトレンドと進化

  • デジタルトランスフォーメーション:企業のビジネス変革が進めば、EA フレームワークは、新たなデジタルビジネスモデルやデジタル技術の統合に対応できるよう適応していかなければなりません。
  • クラウドコンピューティング:クラウド環境への移行により、EA フレームワークには、クラウドガバナンス、サービス管理、スケーラビリティと柔軟性を実現するアーキテクチャに対応することが求められます。
  • データ分析と AI:データ分析や人工知能 (AI) の重要性が高まると、EA フレームワークは、データガバナンス、倫理、意思決定プロセスにおける AI の利用に対する戦略を組み込むよう迫られます。

デジタルトランスフォーメーションが EA フレームワークに与える影響

デジタルトランスフォーメーションを実現するには、従来の EA フレームワークを見直す必要があります。未来のフレームワークに求められる条件には次のものがあります。

  • ビジネスプロセスやビジネスモデルにデジタル技術を統合する際の指針とすることができる。
  • 顧客中心のアプローチと顧客価値の創出を支援する。
  • 迅速なイノベーションと市場の変化に対するすばやい方向転換を可能にする。

新興のフレームワークと方法論

  • アジャイルと DevOps:新たなフレームワークは、アジャイルと DevOps の原則を取り入れ、反復型開発、継続的デリバリー、開発チームと運用チームの緊密なコラボレーションを重視したものになる可能性があります。
  • サービス指向アーキテクチャ (SOA) とマイクロサービス:組織が SOA やマイクロサービスに移行すれば、EA フレームワークは、サービスポートフォリオの管理とオーケストレーションの指針とならなければなりません。
  • サイバーセキュリティとコンプライアンス:データ保護とプライバシーへの関心が高まれば、EA フレームワークは、サイバーセキュリティ原則と EU 一般データ保護規則 (GDPR) のような規制に対するコンプライアンスを組み込む必要があります。

未来の EA は、変革を促し、イノベーションを育むことができるという特徴を備えたものになります。

また、ビジネス目標との整合性を保ちながら、動的かつレジリエンスに優れ、新たなテクノロジーや方法論を活用できるものでなくてはなりません

このように、EA フレームワークは今後も進化し、デジタルランドスケープに対応するための戦略的かつ実践的なガイダンスを提供し続けると考えられます。

 

まとめ

EA フレームワークは、組織がビジネス目標と IT インフラをまとまりのある形で効率的に整合させるために欠かせないツールです。

本ガイドで紹介してきたように、EA フレームワークにはさまざまなものが存在し、その 1 つひとつに独自の強み、原則、方法論があります。TOGAF やザックマンフレームワークのような構造化された包括的なアプローチから、特定の分野に特化した柔軟性と適応性の高いガイダンスに至るまで多岐にわたります。

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FAQ(よくある質問)

EA(エンタープライズアーキテクチャ)とは何ですか?

エンタープライズアーキテクチャとは、組織の目標達成に向けて、そのビジネス戦略、プロセス、情報、テクノロジーを整合させる戦略的なフレームワークです。組織を全体論的に捉えることで、効果的な意思決定、リソースの最適化、ビジネス環境の変化への適応を実現します。

EA フレームワークごとに複雑さ、対象範囲、方法論は異なり、それぞれが異なる組織規模、業界、戦略的目標に合わせて作られています。

EA フレームワークは、IT 投資をビジネス目標に整合させるための構造化されたアプローチを提供し、ひいては効率性と戦略的アジリティの向上をもたらすためです。 

ほとんどのエンタープライズアーキテクトは、実務でよく利用している TOGAF のフレームワークにはすでに精通しています。ただし FEAF にも、TOGAF の基盤アーキテクチャ (Foundation Architecture)、ビューポイント、およびビューに付随するガイダンスに類するものが組み込まれています。FEAF は EA 指向であるのに対し、TOGAF は IT アーキテクチャ指向のほうが強いフレームワークです。したがって、両方のフレームワークと方法論に対する知見を備えることにはメリットがあります。

TOGAF と FEAF の主な違いは、FEAF が米国連邦機関向けにその EA を構築するためのガイダンス提供を目的としている点です。FEAF マトリクスの構造も、TOGAF の構造に直接対応しているわけではなく、むしろザックマンフレームワークに対応していると言えます。とはいえ、TOGAF がカバーする 4 つのアーキテクチャドメインのうち 3 つは、FEAF マトリクスの列に直接対応しています(上記参照)。

EA フレームワークは、新たなテクノロジーをビジネスプロセスやビジネスモデルに統合するための構造化されたアプローチを提供することで、デジタルトランスフォーメーションの指針となります。

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