EA(エンタープライズアーキテクチャ)フレームワークの概要をチェックして、貴社の IT の戦略的可能性を解き放ちましょう。
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EA(エンタープライズアーキテクチャ)は、情報テクノロジーをビジネス目標に整合させることを目指す現代の組織にとって不可欠な分野です。EA では、組織のプロセス、情報システム、人材、ビジネス目標を全体論的に捉えます。
EA の主たる目的は、組織が戦略を実行するために必要なビジネス、情報、プロセス、およびテクノロジーの変革を進める上での案内役となる地図を作成することです。
こうした地図は、組織の計画策定や設計に対する体系的なアプローチを提供する、さまざまな EA フレームワークを用いて作成されます。
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EA フレームワークは EA 分野の根幹をなすものであり、組織の構造や運営を整理するための系統立ったアプローチを提供します。
EA フレームワークは、企業の主な視点から得たものを体系的に捉えるための青写真であると考えられます。つまり、組織が内部構造、IT 資産、プロセス、ポリシーを理解し文書化することを支援する概念的ツールと言えます。
このようなフレームワークは、組織が IT とビジネスを整合させることによって戦略的目標の達成を確実にするために、全社的な分析を計画し実行する上で役立ちます。
一般的に、EA フレームワークには以下が含まれます。
フレームワークによってその対象範囲は異なることが多く、ビジネスアーキテクチャ、データアーキテクチャ、アプリケーションアーキテクチャ、テクノロジーアーキテクチャなど、さまざまな EA のレベルが対象となります。
フレームワークの中には規範性が高いものもあれば記述的なものもあり、プロセスに重点を置くものもあれば文書に重点を置くものもあります。
EA フレームワーク内での標準化は、組織のアーキテクチャのさまざまな要素の一貫性と統合性を確保するために極めて重要なものです。
標準化によって作業の重複を避け、IT システムとビジネスプロセスが衝突する可能性を低減することができます。
標準化されたフレームワークでは、以下も促進されます。
EA フレームワークは画一的なものではなく、そのアプローチ、方法論、最終的な目標はフレームワークごとに大きく異なります。
本セクションでは、さまざまな EA フレームワークの概要と、それらのフレームワークにおける標準化の重要性について概説します。
TOGAF は、特に人気があり広く利用されている EA フレームワークの 1 つです。The Open Group によって開発されたこのフレームワークは、組織が自らにとって最適なアーキテクチャを設計、評価、構築するための支援をすることを目的としています。
このフレームワークの柱をなすのは、EA を構築するための段階的なアプローチを提供する TOGAF アーキテクチャ開発手法 (ADM) です。ADM は、初期計画からアーキテクチャ導入後の管理やガバナンスに至るまでの必要なあらゆるフェーズを網羅しています。
ADM のサイクルは、以下のフェーズから構成されます。
これらのフェーズを支援するのが TOGAF エンタープライズコンティニュームおよびツール (TOGAF Enterprise Continuum & Tools) です。これは、EA に関わるさまざまな資産を分類・保管する方法を提供するものです。
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ザックマンフレームワークは、最初期に誕生した最も基本的な EA フレームワークの 1 つです。1987 年にジョン・ザックマン (John Zachman) によって考案され、その包括性と記述性を重視するアプローチによって EA 分野の基礎をなしてきました。
ザックマンフレームワークは、複雑なエンタープライズシステムを開発する際に利用されるアーキテクチャアーティファクト(すなわち、設計文書、仕様書、モデル)を整理するための分類法であると説明されることがよくあります。ほかの一部のプロセス指向のフレームワークとは異なり、マトリクス構造を成しています。
ザックマンフレームワークは、コミュニケーション上の 6 つの論点(What[何を]、How[どのように]、Where[どこで]、Who[誰が]、When[いつ]、Why[なぜ])を表す列と、異なる 6 つの視点(プランナー、オーナー、デザイナー、ビルダー、サブコントラクター、エンタープライズオペレーション)を表す行を交差させた 2 次元の分類スキーマで構成されています。
マトリクスの各セルは、EA の全体像を作り上げるために必要な特定のアーティファクトを表します。これらのアーティファクトによって、さまざまな視点で組織を理解し、文書化できるようになり、見落としを防ぐことができます。
ザックマンフレームワークは、後続の EA フレームワークの開発に多大な影響を与えてきました。それらのフレームワークの多くがザックマンフレームワークの主要な概念や構造を部分的に取り入れています。
FEAF は、米国連邦政府によって開発された EA フレームワークであり、その目的は、組織全体の改善活動の一環として、戦略、ビジネス、テクノロジーの管理を統合するための共通のアプローチを提供することにあります。
FEAF は、連邦プロセスの共同開発、相互運用性、連邦機関や他の政府機関の間の情報共有を促進します。連邦機関は FEAF を利用することによって、IT リソースとミッションや戦略計画との整合性を高めることができ、その結果、公共サービスをより効率的に提供できるようになります。
FEAF の主要な構成要素の 1 つがセグメントアーキテクチャです。セグメントアーキテクチャは、組織を管理可能なセグメント(つまり事業領域)に分割することで、組織に対する全体論的な視点を保ちながら個別に対応できるようにするものです。これにより、改善の焦点を絞ることができ、IT 投資の管理がさらに容易になります。
PRM も FEAF に不可欠な要素です。PRM は、IT 投資のパフォーマンスと戦略的成果への影響を測定するのに役立ちます。PRM は、連邦機関全体のパフォーマンスを理解するための共通フレームワークを提供することによって、より的確な意思決定と、連邦 IT リソースの管理効果の向上を可能にします。
FEAF の導入によって得られる重要なメリットには以下のようなものがあります。
ただし、組織は以下のような課題に直面することもあります。
要するに FEAF とは、連邦機関が EA を管理するための体系的なアプローチを提供するものです。連邦政府特有のニーズに合わせて設計されており、サービス提供とガバナンスの改善を促します。
ArchiMate は、The Open Group によって開発された包括的なエンタープライズデータモデリング言語であり、IT アーキテクトが明確かつ統合的な EA モデルを作成することを可能にします。他の EA フレームワークとは一線を画す存在ですが、アーキテクチャの可視化を強化するために、TOGAF のようなフレームワークと併用されることが多々あります。
ArchiMate では、EA を記述する図表を統一した表現で作成できます。さまざまなアーキテクチャドメインと、それらの背後にある関係性や依存関係を記述し可視化する、統合的なアーキテクチャアプローチを提供します。
この言語は、以下の 3 つの主なレイヤー(層)を柱に構成されています。
これらのレイヤーは、アーキテクチャをビジネス目標に整合させるための助けになるモチベーションや戦略といった、追加的なアスペクト(側面)によって支えられます。
ArchiMate は、他の EA フレームワークと共存できるように設計されています。例えば TOGAF の ADM は、EA の開発ライフサイクルを管理するために利用できますが、ArchiMate は、そのライフサイクル内のさまざまなフェーズや構成要素を記述し、可視化するために利用できます。
組織が ArchiMate を利用する目的は以下のとおりです。
ArchiMate をモデリング言語として効果的に利用すれば、組織の EA 活動の明瞭度とインパクトは大幅に向上し、ArchiMate がアーキテクトに必須の貴重なツールの 1 つとなる可能性があります。
DoDAF は、米国国防総省 (DoD) が採用するアーキテクチャフレームワークであり、DoD が組織の現状と将来像を可視化し、明確に表現するための方法を構造化したものです。
2000 年代初期に開発された DoDAF は、DoD 内の各種計画やプロジェクトと DoD の戦略およびリソースとの整合性を確保することを目的としています。
このフレームワークは、上位の戦略計画担当者からシステム実装担当者に至るまでの幅広いステークホルダーとその関心に対処するフレームワークです。
DoDAF では各要素のビューとモデルを、さまざまなステークホルダーの視点と一致させた以下のようなビューポイントにまとめています。
これらのビューポイントにはさらに詳細なモデルが含まれており、それぞれのモデルはアーキテクチャの特定の側面に対処できるように設計されています。例えば、作戦ビューポイントには、システム間通信の関係性を説明する作戦ノード接続記述 (Operational Node Connectivity Description) などのモデルが含まれます。
DoDAF は、DoD やその他の防衛関連組織にとって引き続き重要なフレームワークであり、複雑なシステム群の適切な設計、および戦略的目標と作戦上のニーズへの対応を確実にするものです。
MODAF は、防衛計画策定および変革管理活動を支援することを目的として英国国防省によって開発されたアーキテクチャフレームワークです。
✍️ MODAF は NATO アーキテクチャフレームワークに置き換えられました。
MODAF は、防衛のさまざまな分野におけるアーキテクチャ要素を表現して可視化する方法を標準化し、意思決定者が複雑なシステムを理路整然と理解できるようにするものです。
MODAF は、英国国防省における適切な装備や技術システムの調達・管理をサポートするように設計されています。
MODAF では、以下のようなさまざまなビューポイントに分類された情報を、一連のビューに整理します。
MODAF は単なるモデルの集まりではありません。英国防衛省内のプロセスを戦略的に統合し、防衛職員が利用するシステムや手順と作戦戦略を整合させることを可能にするフレームワークです。
MODAF は、防衛を主眼とした組織やプロジェクトに特に適していますが、MODAF が体現する原則は、他分野の大規模なシステムエンジニアリングや統合活動にも応用できます。
MODAF は、リスクが高くシステムが複雑な環境において不可欠な、モデリングと意思決定に対する規律あるアプローチを促進します。
IAF は、組織の EA を設計し文書化するために用いられる方法論です。エンタープライズシステムの複雑さに対処し、組織のビジネス面と IT 面の整合性を確保する方法として、キャップジェミニによって開発されました。
IAF は、詳細かつ包括的なアプローチで知られており、ビジネス、情報、情報システム、インフラ技術の観点から、組織を多次元的に捉えます。また、これらの観点を統合することによって、ある領域における変更が組織全体で正確に反映されるようにします。
IAF は、組織を全体論的に捉え、アーキテクチャのさまざまな構成要素間の相互関係に着目することを提唱する一連の原則の上に成り立っています。
IAF では、以下のような多様なモデルやビューを使用して EA の複雑さを把握し、記述します。
IAF は、さまざまなアーキテクチャドメイン間での相互作用が重要になるビジネス変革イニシアチブを導く際に特に有用です。IAF の構造化されたアプローチは、組織が複雑な変革プロセスやテクノロジーの進歩に対応することを支援します。
IAF の多次元的アプローチは、組織のアーキテクチャの複雑さを管理するための堅牢な仕組みをもたらすことによって、あらゆる構成要素を考慮し、組織全体の戦略や目標と整合させます。
上述の主な EA フレームワーク以外にも、組織固有のニーズやコンテキストに応じて利用を検討できるフレームワークがいくつか存在します。
これらのフレームワークは多様な視点と方法論を提供し、それぞれが EA の理解と整理に対する独自のアプローチをもたらしています。
このようなその他のフレームワークの概要を簡単に紹介します。
これらのフレームワークはいずれも固有の強みを備えており、他のフレームワークより、特定の種類の組織やアーキテクチャ上の特定のニーズに適している場合があります。
適切な EA の選定は組織にとって、その影響が長期にわたる可能性もある重要な意思決定です。
EA フレームワークの選定プロセスは、組織の戦略的目標、文化、運用モデルと整合するさまざまな要素を検討する綿密なものになります。
EA フレームワークの利用は一度限りのイベントではなく、整合・評価・適応を継続的に繰り返すプロセスです。重要な点は、組織にとって即時的な価値と長期的な戦略的適合性のバランスの取れたフレームワークを選ぶことです。
EA フレームワークを選定したら、焦点は導入に移ります。導入を成功させるには、慎重に計画を立て、ステークホルダーを関与させ、継続的に管理して、期待されるメリットがフレームワークによって確実に実現できるようにします。
EA フレームワークの導入では、アーキテクチャが組織の真のニーズに確実に応えるための献身的な努力、リソース、そして明確なビジョンが必要です。
EA はテクノロジーの進歩、ビジネスモデルの変化、イノベーションの加速に応じるように絶えず進化し続けています。
EA フレームワークの未来はこれらを原動力にして形作られ、適応性、新興テクノロジーの統合、アジャイル方法論との整合を重視したものになる可能性があります。
デジタルトランスフォーメーションを実現するには、従来の EA フレームワークを見直す必要があります。未来のフレームワークに求められる条件には次のものがあります。
未来の EA は、変革を促し、イノベーションを育むことができるという特徴を備えたものになります。
また、ビジネス目標との整合性を保ちながら、動的かつレジリエンスに優れ、新たなテクノロジーや方法論を活用できるものでなくてはなりません。
このように、EA フレームワークは今後も進化し、デジタルランドスケープに対応するための戦略的かつ実践的なガイダンスを提供し続けると考えられます。
EA フレームワークは、組織がビジネス目標と IT インフラをまとまりのある形で効率的に整合させるために欠かせないツールです。
本ガイドで紹介してきたように、EA フレームワークにはさまざまなものが存在し、その 1 つひとつに独自の強み、原則、方法論があります。TOGAF やザックマンフレームワークのような構造化された包括的なアプローチから、特定の分野に特化した柔軟性と適応性の高いガイダンスに至るまで多岐にわたります。
継続的なビジネス価値を迅速に生み出すエンタープライズ アーキテクチャの 4 つのステップを学びます。
EAプログラムの明確な目標の設定
ビジネス能力マップの作成
アプリケーションインベントリの構築
データの完全性と品質の確保
EA(エンタープライズアーキテクチャ)とは何ですか?
各エンタープライズアーキテクチャフレームワークの違いは何ですか?
EA フレームワークごとに複雑さ、対象範囲、方法論は異なり、それぞれが異なる組織規模、業界、戦略的目標に合わせて作られています。
エンタープライズアーキテクチャフレームワークが組織にとって重要である理由は何ですか?
EA フレームワークは、IT 投資をビジネス目標に整合させるための構造化されたアプローチを提供し、ひいては効率性と戦略的アジリティの向上をもたらすためです。
組織は EA フレームワークをどのように選定しますか?
ほとんどのエンタープライズアーキテクトは、実務でよく利用している TOGAF のフレームワークにはすでに精通しています。ただし FEAF にも、TOGAF の基盤アーキテクチャ (Foundation Architecture)、ビューポイント、およびビューに付随するガイダンスに類するものが組み込まれています。FEAF は EA 指向であるのに対し、TOGAF は IT アーキテクチャ指向のほうが強いフレームワークです。したがって、両方のフレームワークと方法論に対する知見を備えることにはメリットがあります。
TOGAF と FEAF の主な違いは、FEAF が米国連邦機関向けにその EA を構築するためのガイダンス提供を目的としている点です。FEAF マトリクスの構造も、TOGAF の構造に直接対応しているわけではなく、むしろザックマンフレームワークに対応していると言えます。とはいえ、TOGAF がカバーする 4 つのアーキテクチャドメインのうち 3 つは、FEAF マトリクスの列に直接対応しています(上記参照)。
EA フレームワークがデジタルトランスフォーメーションに与える影響は何ですか?
EA フレームワークは、新たなテクノロジーをビジネスプロセスやビジネスモデルに統合するための構造化されたアプローチを提供することで、デジタルトランスフォーメーションの指針となります。